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CADは描けるけど作れない 精密板金の限界
CAD図面に記載されている内容や公差は、お客様の了承を得ない限り、変更することができません。
しかし、お客様から頂くCAD図面の中には、実際に曲げられないものや、強引に加工すると、穴や端部が変形してしまうような図面が来ることも…。
今回は、そのような「CADで描けても、加工できない!」そんな板金の加工限界をご紹介します。
CADは描けるけど作れない、精密板金の限界
①曲げ加工編
「SUSt2.5なんだけど、内R1.0におさめてほしい」
精密板金加工品の曲げ角度は板厚や材質に左右されますが、実は精密板金加工会社ごとに設定値が異なります。
この設定値というのは、自社が持っている金型を使った曲げ加工におけるベストな状態の数値となっており、この数字から外れる加工の場合、材料によっては割れが発生したり、仕上がりが不安定になって不良になりやすく、また金型を痛めることに繋がります。
そのため、指示通りの曲げ角度に対応するためには、専用金型の製作が必要となる場合があります。したがって、精密板金加工を依頼する際には、事前に各社の曲げ加工スペックを確認することを推奨します。
当社の社内規格は以下の表になりますので、設計の際に参考にしてください。
以下に記載のないアルミ精密板金についてですが、鉄やステンレスよりも曲げた時に割れやすいため、他の材質よりも曲げ角度を大きく取ることが基本となります。
マツダの社内規格表
弊社では、どうしても内Rを小さくしたい場合は、曲げではなく2部品にして溶接での接合を提案しております。
②切断加工編
「SUSt10.0をレーザー切断し、板の上面と下面で全く同じ寸法にする」
レーザー切断は、集光レンズで光を集め、焦点を材料に当てて加工します。光の性質上、焦点を基点として光は広がるので切断面にテーパーが発生します。(下の図参考)一般的には、SUSは板の下面に焦点を当てるため下面が長いテーパーとなり、鉄は板の上面に焦点を当てるため上面が長いテーパーとなります。レーザー切断する板厚が厚ければ厚いほど、このテーパーが大きく生じ、このテーパーが原因で、板材の表面と裏面に寸法差が生じてしまいます。
弊社では、この差をできるだけ抑える工夫をして切断しており、t1.0程度ではほとんど分からない程度、t3.0ではおおよそ0.1ほどの差になりますので、精密板金としては問題ないかと思いますが、超高精密な装置の場合は品質に影響が出る恐れがあります。
③溶接編
「角から3mmのところに高ナットを全周溶接」
溶接は指示があったとしても、必ずしも対応できるとは限りません。なぜなら、図面上では指示できたとしても、実際にはトーチが入らない場合や、溶接箇所によっては手が入らない場所があるからです。弊社で所有している設備の中ではファイバーレーザー溶接が1番細かい作業に向いていますが、φ0.1のレーザー光が入る隙間がないと溶接することができませんし、部品同士を90度で溶接する場合、45度の入射角が取れない部分は溶接が困難です。
「溶接歪み無き事」
溶接では熱を加える以上、歪みが全く起こらないということはありません。
特に薄物で全周溶接を採用すれば、入熱による影響は顕著に歪みとして発生しますし、溶接する板材同士の板厚差が大きいと、入熱管理が困難になり歪みが発生しやすくなります。
「溶接歪み極力無き事」はできても「溶接歪み無き事」は対応できないというわけです。
この場合、部分的にタップ溶接を採用したり、溶接方法を入熱管理のしやすいレーザー溶接に変更することで、歪みを抑えたご希望の仕上がりに近づけることができます。
「どうなら作れるか」をご提案します!
マツダではデータを作るプログラマーも現場で作業を行っており、加工可能かどうかをすぐに判断できます。さらに、標準金型や治具で加工ができない場合でも、社内で専用金型・治具を内作していますので、安心してご相談いただけます。
「この図面で加工できますか…」「図面がない製品だけど、設計から相談に乗っていただけますか…」などの設計に関するご相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。